第1章 それぞれの事情[2]

@筆者:五味洋治プロフィール [ 2011年 6月 3日 ]

農村の集団お見合い

1980年代に自治体が旗振り役となったヨメ探しは、日本の国際結婚の歴史の中で、もっともマスコミの注目を浴び、同時に批判も受けた時期である。
1989年に出版された「農村と国際結婚」(佐藤隆夫ほか著、社会評論社)と題された本には、農村の嫁探しの実態が記録されている。
山形県朝日村のケース。朝日村は山形県西部にあり大部分が朝日山地に属する山岳地帯で、村の9割以上が山林だ。冬の積雪量が2メートルを超える年もある。
同書によれば、30年前の日本にも、2年間で1万人の外国人花嫁が来ていたというから驚く。
一般的な結婚のスケジュールが記録されている。これは朝日村に近い大蔵村のケース。今見ても、そのせっかちぶりには驚かされる。フィリピンのバコールという村が訪問先だった。
8月2日出国、その日のうちにお見合い、5日結婚式、6ー8日新婚旅行、11日男性出国、11日男性帰国、12日男性自宅に戻る。20日女性があいさつのため男性の家を訪問する。
農村振興という切羽つまった事情があったにせよ、お見合いから最初の来日までわずか18日で入国している。観光ビザを使って訪日しており、正式な婚姻手続きはその後、数ヶ月かけて行っていた。申し訳ないが、この日程では、相手の顔と名前がようやく記憶できる程度だろう。愛を育めというのが土台無理な話だ。
この当時、費用はすべて男性持ちで、200万円かかっていた。
豊かな生活を夢見て来日した女性たちを、実際に待っていたのは雪深い農村での生活だった。花嫁の失踪事件も相次ぐ。準備が十分でないまま急拡大した行政主導の国際結婚は、「人身売買の手助けをした」との厳しい批判の中で中断された。
その後、各自治体は花嫁定着のために、日本語学校を開いたり、交流会を行うなどして定着に努力したが、これらの自治体では人口は減り続けているところがほとんどだ。
その後、花嫁探しは中国の東北3省に移っていく。日本に関する情報が少なかったためだ。その事は2章で詳しく説明したい。


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中国の台頭は改革・開放が契機

村の国際結婚で中国人女性は当初、少数派だった。社会体制の違い、出国も厳しく制限されていたことが主な理由だった。1980年代に改革開放を掲げて、経済成長を始めた中国は、国際結婚の相手国として急速に台頭してくる。
特に、外国資本の流入が早くから始まっていた上海からは、多くの花嫁がやってきた。日本の結婚仲介業者も、北京や上海に事務所を構え始めた。
1991、92年ごろ上海に国際結婚相談所が雨後の筍のように生まれた。この背景には上海女性独特の開放的で合理的、すこし悪く言えば割り切ったなものの考え方があった。
上海女性と言えば、2009年、中国のネットの世界でかなり物議を醸した文章がある。「私は日本人と結婚する」というタイトルで、上海の女子大生が書いたものだ。時代は違うが、興味深いので、紹介しよう。
「上海に来たばかりの女子大学生」と自己紹介しているこの人は、「なぜ中国人はこれほどまでに日本人を恨んでいるのか。一体日本人が中国人に何をしたのだろう?」と反日的な中国人を批判している。
さらに「私は小さい頃から日本が好きだし、日本人も好きだ。私の夢は日本人男性と結婚することだし、私の周りの友人たちも同じ考えを持っている。女性は強い人間と結婚したいと思うのが常」と言い切り、中国人男性は平均資産、素養の面でも「日本人男性の百分の一以下」と切って捨てた、さらに、中国人男性たちは恥ずかしいと感じないのだろうかと、挑戦的な疑問を投げかけている。
もちろんこの文章には、愛国心にかけては、どの国にも負けない中国人男性から批判が殺到したが、中国の都会には、彼女のようにはっきりした意見を持って、自分の人生を選ぶ女性が多いことがうかがえる。


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「見知らぬ妻へ」が語るもの

中国人女性と聞くと思い出す小説がある。浅田次郎氏の短編「見知らぬ妻へ」だ。あらすじを引用させてもらう。
主人公の花田章は新宿歌舞伎町で客の引き込みをやっているしがない男。彼が、ふとしたきっかけで暴力団員の顔見知りから、中国人の女性、玲明との偽装結婚を頼まれる。報酬は50万円。不法滞在している玲明を警察の摘発を逃がすためだった。
花田は最初はとまどった。「女の肌が恋しい齢ではないが、エプロンをかけて立ち働く姿にはそれなりに心を動かされ」結婚に同意。ぎこちない同居生活が始まる。簡単な英語も通じず、2人は筆談で交流を始め、3カ月間夫婦として暮らす。花田は徐々に玲明に情が移り始めるが、その時、偽装結婚を頼んできた暴力団員が抗争に巻き込まれ、射殺されてしまう。
玲明は借金を抱えており、暴力団が用意したバスで地方に送られることになった。花田は止めようとするが別の暴力団員に殴られ、二人は引き裂かれる。玲明は、バスから花田の名前を呼び、プレゼントしてもらったペンダントを投げ返すー。底辺に生きる人の情が絡み合った、浅田氏得意の世界である。
奥さんは27歳なのにすでに離婚歴があり、子供1人を中国に残してきている。花田にも別れた妻との間に子供がおり、花田と子供たちとの葛藤も描きこまれている。
もしあなたが、中国人を妻にしていたら、この短編を読んで、どこか自分と重ね合わせたかもしれない。


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日本人男性側の事情

中国人女性を選ぶ日本人の男性の中には、中国が好きで好きでたまらず、ついでに奥さんも中国人を選んだという人もいるだろう。ただ、それは少数派だと思う。
花田のように、「思いがけなく」「やむを得ず」「他に選択がなくて」結婚した人が大半だろう。その1人は、実は私である。できれば、100%意思疎通できる日本人が好ましいことに、異論のある人はいないはずだ。
ではなぜ、中国人を配偶者とする男性が増えているのか。
その理由は大きく3つあると思われる。
1番目で最も大きい理由は、収入が比較的低い中高年の男性がなかなか結婚できなくなった日本社会の現実がある。不景気で給料が増えない。親と同居する人が男女ともに増え、結婚に踏み込めない。
国立社会保障・人口問題研究所の2009年の調査によると、30代後半で結婚せず、親と同居している人の率は42%で、不況の影響で年々その率は上がっているという。2005年現在、65歳以上の男性の独身者人数は、およそ113万人にのぼる。高齢、独身男性の生き方を説いた『男おひとりさま道』というタイトルの本がベストセラーになり、「男おひとりさま」は流行語にもなった。
このマイナス要因を、日中の収入の差、特に日本の都市部と中国農村部の差が補ってくれている。日本では収入はそれほど高くなくても、中国では高い部類になり、女性も結婚対象と考えてくれる。
2番目は、中国人女性が親孝行で、子供を産んでくれそうだという期待である。もう少しはっきり書くと、田舎で育ったから、地味で質素ではないかという、やや勝手な思いこみだ。
3番目は、やはり同じ漢字文化圏であり、思考方法に重なり合う部分が多いと考えられることだ。
実は、日中の両国民は発想や人との付き合い方などで違いがある。さらに、農村育ちでモノがない、などと考えると大間違いなのだが、そのことは私の体験も踏まえつつ、3章で触れることにして、まず1と2について考えてみる。


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