第5章 中国人妻をめぐるトラブル[3]
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第5章 中国人妻をめぐるトラブル[3]
片偽装結婚の被害者、太田さん
「片偽装結婚」のやっかいな点は、被害が表に出にくいことだ。
思いがけなく被害者となってしまった太田肇さん(50)とは、日本の国際結婚業者からの紹介を受けて知り合った。千葉県でダンプの運転手をしていて、年収は300万円。仕事柄か、腕が太く、50代には見えない。
太田さんとはかれこれ一年近いおつきあいをして、被害の一部始終をつぶさに教えてもらった。同じ被害に遭わないためにも、記録しておきたい。
太田さんは、仕事柄、家を空けて港や工事現場に住み込むことが多く、結婚していた日本人の奥さんとしっくりいかなくなって離婚した。
50代になってもう一度家庭を持ちたいと考え、相手として中国人の女性を考えはじめた。家に帰ってネットで情報を集めると、家の近くに国際結婚の紹介業者がいた。進められるままにネット電話で会話した。相手は日本語ができたので、意気投合。数カ月後に中国に行って、お見合いした。
相手は32歳で独身、という経歴だったが、そこからが大変だった。
太田さんは一抱えもある資料を見ながら、結婚までのいきさつを語りだした。
業者の仲介で、初めてネット電話で話した時、「彼女はその場で、結婚していいと言ってくれた」と話した。
まさか、それは疑うべきだったんじゃないんですか、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
何の縁もない私に自分の体験を話してくれるのに、いきなりこんなことを言っては失礼だろう。
「この話をすると、みんな危ない女だろうというけど、僕は大丈夫な気がしたんですよ」ー男ってそうかもしれない。
奥さんが日本に来て約1カ月。地元の役所から外国人登録証明書が出た。そのとたん、「態度が強くなった」。偶然、彼女に、過去の結婚歴と9歳の子どもがいることがわかり、毎日口論になった。彼女は謝るどころか、いきなり飲料の入ったペットボトルで自分の頭を殴り、玄関に寝転がって泥だらけになった。
驚いた太田さんが警察を呼ぶと、妻は100万円の借金をして日本に来た。働かないと中国にいる親に迷惑がかかると告白したそうだ。
その後、自分で地元の市役所に行って、紙に「DV保護」と書いて担当者に見せたそうだ。実際に、その紙を見せてもらった。「護」の字が中国で使われる簡体字「?」と書いてあった。
「日本に来て1カ月でDV(家庭内暴力)なんて言葉は知らないはず、と太田さんは言う。それから数日して、彼女は荷物を置きっぱなしにして家出して、音信不通になった。経歴をごまかし未婚だと言っていた彼女が憎らしかったが、「今は戻ってきてほしい。もう一度やり直したい」「わずか一カ月だったけど、それなりに楽しかった。料理も作ってくれた。もういちどやり直したい」
家族がいる生活、だれ4かが待っていてくれる日々。それは誰にとっても貴重だ。
弁護士からの手紙
そんな太田さんの気持ちとは逆に、彼女は失踪後、その足で埼玉の弁護士に離婚の相談に行っていた。弁護士から自宅に手紙が届いたので分かった。
その手紙はワープロで書かれており、「女性は手拳で殴られた疑いがあり、一週間の治療が必要。つきまといをやめなさい。暴力は人間として最低の行為であり、今後も続けば法的手段を取る」と強い調子で書かれていた。妻が失踪→弁護士からの警告→男性が和解金を支払って離婚ーは、かなり多いパターンである。
しかし、わずか1カ月日本に滞在して、ここまで手際よく進むものか?協力者がいるのは間違いないと思われた。念のため、太田さんが自宅電話の通話記録を調べると、東京の携帯電話や大阪方面に頻繁に電話をかけていた。大阪の電話はファッションマッサージの店であることが後で分かった。
彼女は、中国にいる自分の家族に電話して、太田さんに関して、「部屋が汚くて耐えられない」などと話したとか。これは、太田さんが結婚のため中国に行った時に世話になった通訳が教えてくれた。
太田さんは、「もう何も求めないが、少なくとも中国に帰ってほしい。私との結婚をダシに歓楽街で働いると考えると耐えられないし、心配だ」
彼女は100万円の借金をして日本に来ていることを自ら太田さんに話したことがある。
私は「じゃ、思い切ってそれを負担してあげたら?割り切れないでしょうが、それが一番いい方法ではないかと思います」と提案すると、しばらく黙り込んでいた。
女性側も経歴に嘘があったが、実は太田さんも正直に言っていなかった。日本の仲介業者は太田さんに「年収が300万円では、誰も結婚してくれない。収入は1000万円にしておけ」と指示された。
さらに、過去に、短期間中国人女性との結婚をした経験もあるが「これも言わない方がいい」と忠告されて、女性に黙っていた。
それにしても結婚をまとめるために、双方に嘘を言わせる手口はあきれるしかない。業者として、説明書類、正式な領収書も交付していない。
ただし、法律的に言うと、相手の経歴がでたらめでもいったん結婚すれば、もう抗議できなくなる、法的手段はとれなくなるというのが一般的な見方のようだ。
結婚すれば不問に
特定商取引法という法律の解説書を読んでみた。国際結婚業も、この法律の縛りがかかるためだ。
この法律に従って業者は、国際結婚にかかる必要事項を記載した書面を交付しなくてはならない。これを怠ると契約して20日を過ぎてもクーリングオフがいつでも可能になり、業者側には行政罰、場合によっては刑事罰が科される。
結婚相談業は2カ月以上継続して役務発生する内容で特定商取引法の対象になるが、いい加減に処理している業者が少なくない。京都にあり、中国出身の奥さんと国際結婚紹介を営んでいる有限会社かりん551の土井康司さんは、特定商取引法の重要性を自分のブログに書いて啓蒙している人の1人だ。
「業者との契約書は、お見合いのため訪中して婚約した時点で結ぶのが6割〜7割。まったく契約書がなかったり、あっても収入印紙を貼っておらず、紙切れに契約金額と契約者だけ書いたケースもある」と説明した。
婚約から結婚して生活する時点で
相手の履歴に虚偽などがあれば、訴訟を起こすことも可能で、裁判の結果、業者や本人は特定法違反に問われるケースもある。
国際結婚業者は、契約に関する基礎的な知識がなかったり、教育や研修を受けていない人が少なくない。特にバイト感覚の在日中国人主婦は、何もやっていないのが実情だという。