第4章 結婚を仲介する人々[6]
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第4章 結婚を仲介する人々[6]
国際結婚協会
「そうか、そうか、分かった。大変だったね。とりあえずこうしてみたら」
国際結婚協会は六本木に事務所を構えていた。この協会で国際結婚に関する各種相談を受けているのが事務局長の芝山正嗣さんだ。
芝山さんは、すでに70歳を越えているが、長身、バリトンの低い声で、まるで日活のスターのような印象である。
協会には、1日にメール相談は4ー5件、電話も3ー4件ある。基本的に日本に在住している人からの質問に答えている。それこそ様々な国際結婚をめぐるトラブルが毎日飛び込んでいる。
私はてっきり、相談の大半は中国関係かと思った。今日本の国際結婚の4割は日本人の男性、中国人の女性の組み合わせだ。
ところが、実際の相談は、その数字が直接反映されない。芝山さんは「相談の7割は日本の女性が欧米の男性と結婚し、うまくいかなくなったケース。もう少し言えば、米国の軍人との離婚が多い」と説明した。
メールを印刷したファイルの一部を見せてもらった。もちろん名前は隠してある。
確かにそうだった。米国の男性と日本女性のトラブルが大半である。
日本で同居して、結婚の約束をしたのに、うまくいかなくなったとか、結婚後暴力をふるわれ、離婚を考えているがどうすればいいかーなど。メールの文面から、濃いため息が聞こえてきそうな生々しさだった。
考えてみると、中国女性の相談が少ないのは理由がある。業者が関係していれば、男性は業者に相談するに決まっている。自由恋愛で結婚すれば、男性は中国語が多少わかり、自分でも行政手続きについて知っているはずだ。
芝山さんは「日本の男はだらしない。だから頭のいい女性は欧米系と結婚したがる。ところが、実際はそうは甘くない。結婚観も生活様式も違うってわけだね」
実際の解決は国際結婚に精通した行政書士や弁護士に問題を引き継ぐ。国際離婚、とくに子供が絡んでくると、日本が未加入のハーグ条約(加盟国間において親が海外への子供の連れ出しを行った場合には、迅速に子供の返還を請求できる。日本は未加盟)の関係もあり、相手の国の法律が強く影響し非常に複雑になって、経費もかかるそうである。
この協会は、国際結婚トラブル解決の最初の窓口になっているわけだ。
基本的に質問には丁寧に返事を書いて、アドバイスしている。もし、なにか問題を抱えている人は連絡する価値があると思う。この協会は2011年に、内容を改めて再出発した。詳しい内容はネット上のホームページで確認できる。
国際結婚はマル適マークの対象外
最近、日本では「婚活」ブームが起き、結婚相談業務に関心が高まっている。
そのため、安心して頼める業者に「マル適マーク」をつける第三者機関が生まれている。
経済産業省主導の「結婚相手紹介所サービス業認証制度」のことで、結婚情報サービス会社、結婚相談所の信頼性向上を図るため、ガイドラインがまとめられている。これにより利用者が安心してサービスを利用できることが期待されている。
この認証を行う組織には現在2つある。1つは日本ライフデザインカウンセラー協会で、経産省のOBが運営している団体だ。
大手の業者は、審査を受けて「マル適マーク」をホームページに掲示している。
これとは別にマル適マーク認証機関を設立された。
業界大手の楽天が運営するオーネットが主体となり、結婚相談業サポート協会も協力し、NPO法人IMS(結婚相手紹介サービス業認証機構)が生まれた。2009年10月から認定が行われている。
それでは、国際結婚業者はマル適マークの対象となるのか。
否である。
経産省の通達によって、マル適マークを与えられる業者の資格の中に「メンバーが独身証明書を持っていること」との一項目があるためだ。既婚者が相手を求める「出会い系サイト」と区別するのが目的だ。
独身証明書は聞き慣れないことばだが、これは、民法732条に照らして現時点で婚姻の事実がないこと(独身であること)を証明するもの。
結婚情報サービスの入会に当たって、提出を求められることがある。(重婚の禁止の規定に従い提出が求められる場合など)独身証明書は、本籍地の市区町村役所で発行してもらえて、郵送でも取ることは可能だ。
結婚が決まった場合以外、女性側の独身証明書(中国の場合は、結婚用件具備証明書という)が取りにくい事情があり、マル適マークの対象外になっている。
そのため、国際結婚業者の間では、独自の協会を設立して、認証するシステムを作ろうという動きもあるが、小規模なところが多いため、大きな動きにはなっていない。
1人だけ残った
方正県から来た奥さんが産んだまま旧沢内にに残していった子供はいま大きくなって、農業後継者として村に戻ってきている。秋田県にお嫁さんに行った人も、村のお寺に勤めている人もいる。
2010年冬、旧沢内村を訪ねた。関係者に集まってもらい、沢内の国際結婚がどんな風に行われたのかいろいろと教えてくれた。
1人黒竜江省の佳木斯市出身の山口春美さんさんが来てくれた、43歳の女性で、息子は18歳と16歳。「今まで子供のために忙しい時間を過ごしてきた。でも、今ものすごし寂しい」と言う。
驚いたのは沢内には約50人が嫁いできて、今残っているのは彼女1人だけだそうだ。
「年を取ったら中国に帰りたい。ここは発展性がないから。でも夫は中国になじみがないという。どうしようか」
山口さんは、最も早く日本語が上手くなったので、岩手県内に住む中国人女性に日本語を教える仕事をしていた。
彼女はこんな話もした。
黒竜江省方正県の女性について「日本に来る時点で、どこで働くか決めてきている人が少なくない。結婚して子供を産んで永住権を手にしたら、そのまま行方不明になる人もいる。私はいくら働いても月15万円。都会で水商売すれば、最高で月100万円になる。私もずいぶん誘われたが、行かなかった。お金だけが幸せではないと思ったから」
山口さんは日本語も上手いし、車も運転する。非常に活発な人だが「もし、こんな雪の中で家の中だけにいたら刑務所にいる感じね」
この地区には、まだ高速のネット環境がまだ普及していないので、ネットを通じた中国と無料電話ができない。さらに女性が家を守る、朝昼晩と食事をかならず作る、伝統芸能を学ぶなどといった、しきたりがある。20年前はもっと外国人には過酷な環境だったと思う。
離婚の現実
日中国際結婚は簡単ではない。それは数字が物語っている。2007年に限ると、日本人同士の離婚率は35%で、日本人夫、中国人妻だと42%になっている。韓国人の妻、タイ人妻に比べると少ないが、それでも半数近くが破綻している。
国際離婚では2007年の離婚総数は25万4832組で、このうち夫妻の一方が外国籍すなわち国際離婚は1万8220組、約7・1パーセントで数・率とも過去最高だった。
内訳をみると妻が外国籍の国際離婚が1万4784組で、夫が外国籍の国際離婚が3436組。
国籍別に見ると妻が外国籍の国際離婚では1位中国、2位フィリピン、3位韓国・朝鮮。
夫が外国籍の国際離婚では1位韓国・朝鮮、2位中国、3位アメリカの順となっていて、国際結婚の数に比例して、離婚件数も多い。
中国人の妻が離婚を決断する理由の一つに、日本の嫁姑の関係があるとよく指摘される。しかし、これは日本に限った話ではなく、中国でもよくあるケースだ。若い女性は結婚の条件として夫の両親とできるかぎり別居しようとする。
生活様式が合わない上に、息子が家事を手伝っているのをみると、「家事は妻がやるものだ」と批判することがあるからだという。