第4章 結婚を仲介する人々[5]
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第4章 結婚を仲介する人々[5]
二つの故郷をつなぐ仕事
国際結婚紹介業者は丹東で活動しているところはあまり多くない。大手のONYXグループ(東京・六本木)は1995年から、ここで事業を開始した。社長の石田洋司さんは、丹東生まれだ。
2010年末で、海外国際結婚244組・在日国際結婚151組・合計395組、生れた赤ちゃん126人を実現した。今はもっと増えているだろう。同社を通じて日本人男性とゴールインを果たした女性と、その間に生まれた赤ちゃんの数だ。「これが私の宝です」と石田さんは言う。
「二つの祖国をつなげる仕事を」と国際結婚仲介業を始め、業界大手に数えられる。通常、国際結婚紹介業では、結婚まで実現すれば後は知りません、となる。もしアフターサービスで結婚後まで関与したら、夫婦のトラブルまで抱え込まなくてはならなくなる。
しかしONYXグループは、結婚が成立して、夫婦が安定し、子供が生まれるまでを自分たちの範囲と考えている。だからアフターサービス料をもらって、24時間相談を受け付けている。
中国側の仲介業者が多額(150万円前後)の手数料を取ったり、女性が失跡するなどのトラブルもあるが「女性との面接を重視、結婚後の世話も大切」と話す。
自分のことを「花咲かじいさん」と呼ぶ。40代を過ぎて結婚に悩む男性に「結婚をしないのは一生の損。人生の花を咲かせましょう」と呼び掛けており、国際結婚をテーマにしたブログも毎日更新するなど精力的に活動している。
中国人花嫁の学校
丹東には新宮由紀さんという日本人女性が経営する本格的な日本食レストラン「千太郎」があり、日本人の情報交換の場となっている。
新宮さんは大学時代の中国旅行がきっかけで北京留学した。帰国し中国系企業で働いていた時、留学中だった夫の王千さんと知り合った。
丹東で日本語教室を開いていたONYXグループが、2007年4月からほかの場所から「千太郎」に日本語教室を移した。同グループを通じて婚約した花嫁に日本語のほか、日本食の作り方、日本のマナーを教えている。
日本にお嫁さんとしていく中国女性に日本の文化や言葉を教える学校は中国にはかなりあるようだが、日本人が直接教えているところは少ない。
本業の料理の店は、日本食ブームもあって忙しい。市政府幹部や北朝鮮の貿易業者らが常連客だ。中国でも日本食はブームになっているが、中国のお客さんは味にうるさいし、クレームも多い。それに比べると北朝鮮のお客さんはマナーもよく、いいお客さんだ。
花嫁学校の方は生徒が減って、数人になってしまっている。ここ数年、日本に行ってみたいと言う女性は減り続けている。見知らぬ国に行くよりも、国内の都市に出た方が安心して暮らせるということらしい。東北地方の中核都市、大連にも高速道路でつながり、便利になったことも影響しているようだ。
長春と結ぶ
京都を拠点に関西圏及び全国展開で活動しているのが、かりん551の土井康司さんと奥さんの琳さんだ。
琳さんは中国生まれ。地元の大学を卒業後、中国東北部の長春市人民政府に13年勤務し、1998年、国際結婚で来日した。
関西圏の国内結婚に加えて、故郷の長春女性との国際結婚も世話をしている。夫の康司さんは以前、松下電器に勤務し、営業で東北地方を回っていた経験の持ち主だ。私は、妻と土井さんの事務所を訪問したことがある。奈良に近い精華町という近代的な住宅地にあった。
かりんでは、画像が出るパソコン電話を活用し、男性と中国にいる女性を十分に交際させるが、そこに独特のノウハウがある。
まず男性が写真から選んだ女性と、推薦女性合わせて4〜5名と話をする。中国女性は、琳さんの長春の実家に来てもらう。男性は自宅で、通訳の琳さんも参加するので、パソコンの画面に3人の画像が映る仕組みだ。
女性には、男性の自宅や家族、自家用車、買い物するスーパーや病院、保育園、銀行、最寄り駅、観光場所などの写真を女性に見てもらう。
日本男性の住居や環境が、すべて東京のような大都会と勘違いする場合が多く、のちのち問題とならないためだ。特に最近の中国女性は地方都市に嫁ぐことを嫌う傾向があるので、「中国と違って日本の農村や地方の街は豊かだ」と、車の数や暮らしぶり、環境の良さや福祉、教育や食料品の安全性なども男性側からアピールしてもらう。
あとは日本のこと、趣味、スポーツなどに話を広げ、最後には給料についても話す。1週間に1回TV電話し、2カ月で8回ぐらい話した後、お互いに婚約したい気持ちになれば両方の両親も参加する。
実際の会話では「もし姑と妻が喧嘩したらどちらの肩を持つか」といった実践的なことも話題になっていた。
「ここまで事前のTV交際に手数かけている会社は、ほとんどどありません。その代わりお見合い訪中すれば99%婚約です」と土井さんは言う。
今、土井さんがネットで訴えているのは、紹介業者の質の向上だ。丁寧に進めれば、国際結婚の失敗は減らせるとの信念からだ。
日中お見合いパーティ
わざわざ中国まで出向くのは面倒と思う人には、日本国内に住む在日女性とのお見合いがある。入国ビザの厳格化に伴い、ここ数年、日中国際結婚の主流は、在日女性との結婚に移りつつある。
六本木で定期的に開かれている日中合同お見合いパーティーを見学させてもらった。前出の国際結婚業者、東京オニックスの石田社長が快く受け入れてくれたのだ。
日曜の六本木は人が少ない。通りには欧米系の人が目立つ。
そのパーティーはおしゃれなカフェの一角で開かれた。男性は日本、女性は中国人で、最初に自己紹介した後、数分ずつ話をする。しばらく経つと男性が一つずつ席を移動して、女性全員と会話する仕組みだ。
最近は、中国に行ってお見合いするよりも、言葉が通じる国内在住の中国人女性とのお見合い、結婚が増えている。
ただ、石田さんによれば、「国内のお見合いは、女性のバックグラウンドが完全に把握できない。たとえば中国でのお見合いなら、ご両親と会ったり、家庭訪問できるが、在日女性はプライバシーの問題で細かく聞くことができない」と話す。
一長一短ということだ。
名古屋から来た会社員の山本勇さん(45)は、仕事で大連を何度も訪ねたことがある。周辺にも中国人女性と結婚した人が多く、自然と中国人女性との結婚を考えたと話していた。「普通に親を大切にし、家庭を大切にすること。今の日本の女性に言ったら、古風だと片づけられるけれど、中国にはそんな価値観を持った人が多い気がした」とも言う。
お見合いパーティでは、平均3組が生まれ、交際が始まる。
女性はみな日本語がうまい。彼女たちは、日本に残りたいという希望が強い。日本人男性との結婚は、その希望からスタートしていることが多い。
「昔は、何が何でも日本に残るため結婚した人が多かったが、今は適当な人がいなければ中国に帰国する人も少なくない」と石田さんは言う。
中国の経済発展と無関係ではないだろう。
お見合い後の駆け引き
在日中国人と日本人とのお見合いパーテイに最近繰り返し参加している女性(30代)から話を聞いた。天津出身の趙明さんだ。
「こういう場所にくる女性は6割くらいはビザに問題がある」と趙さんはいう。
数カ月後に日本のビザが切れてしまう。帰国したくないので、懸命に日本人の相手を探す。なぜ、帰国したがらないのか。「それは、メンツが一番の理由」と趙さんがいう。中国の大学を出てから、日本に来て苦労して仕事を探し、生活も落ち着いた。中国の友人たちは、自分を羨望のまなざしで見ている。そこでフラリと帰国すれば、どんな陰口を言われるか分からない。親も娘の突然の帰国や同居を望んでいない。中国の結婚年齢は日本より若いので、帰国すればもっと条件が悪くなることは誰でも知っている。
「だから、経済力のありそうな日本人男性なら、女性のほうからすぐ結婚を申し込むみたい。なかにはあまりに突然なので、尻込みする日本人の男もいるほどです」と趙さんはいう。
そりゃそうだ。20代の女性が4、50代の男性にいきなり「結婚してもいい」なんていうわけだから。女には打算があるんだけれども、男は「俺に惚れたな」と誤解してしまう。逆に、ビザの弱みをついて、お見合いの後、いきなり関係を迫る男性もいるらしい。
パーティが始まった。男性は自分の仕事や中国語の能力、それに年収をしっかり言う。ある公務員の男性は「年収は400万円ですが、親とは別居です。性格はとても優しいです」と自己PRに懸命だった。
趙さんによれば、「お見合いに出てくる女性には同居している中国人の男友達がいるケースも少なくない。でもビザの問題が大きいので、彼氏にだまってパーティに出ている」そうだ。
断っておくが、30代の張さんは、まじめである。少々年齢が高いので、中国に帰ってもいい相手に恵まれそうにない。それなら日本の人と結婚しようと思った。どうせなら、ルックルのいい人がいい。こちらも、せっかくパーティに出ているのだから、選択の権利はあるはずだ。
ところが、自分を選んでくれるのは、離婚して子供が2人いるとか、60近い人ばかり。選んでもらえたのだからうれしい気持ちもあるが、納得できない気もする。
自分がお目当ての男性が選ぶのは、20代の女性ばかり。趙さんは「どうして人生経験のない、若い子ばかりがちやほやされるの」とすこししょげている。
目の前で、どんどん経済力のある男がさらわれてしまう。ますます結婚が遅れそうだ。