第4章 結婚を仲介する人々[4]

@筆者:五味洋治プロフィール [ 2011年 7月 17日 ]

海を越えたアプローチ

国際結婚のサポート業者のブログを見ていると、「中国側から提携を求めるメールが来た」との書き込みを見つけることがある。
まさにネット時代。中国にいて日本語の分かる人たちが、日本で中国女性を求めている業者にアプローチしてくるわけだ。
どんな風に接近してくるのか興味があったが、あるページにそのまま掲載してあった。
この業者はすでに廃業しているようだ。一部内容を変えた上で、記録のために転載しておく。
日本の業者は普通の国内結婚の仲介をしていたが、このメールをきっかけに国際結婚を始めたという。

2004年1月吉日
拝啓貴社ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます。はじめまして、中国の●●●です。どうぞよろしくお願い申し上げます。早速ですが、当社は日本語の教育をしている会社です。●●省渉外婚姻管理所などの国際結婚の部門と合作で、日本人と結婚したがる女性をご募集いたしております。今女性が200人ぐらいおりますので、すでに9組を成婚させました。
当社が募集した女性を厳選し、協定した日本側を大切しているので、日本側の利益を最大限保証いたします。よろしければ、貴社が日本人の男性をご紹介いただき、こちらがいい女性をご紹介いたします。
当社の長所は、当地政府とのいい関係。誠実な合作意識が好評を得られていること。日本での経験をいっぱい持つ管理職員チャンスを見逃せず、一生懸命努力の企業文化で、これからの合作にきっといい影響を及ぼすはずだと考えております。今回の合作を速やかに実現できるようにお祈り申し上げます。何卒ご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。(原文のまま)

不自然な表現が多く、合作(協力)と中国語が交じっており、中国人が書いたに間違いない。間違いなく日本に留学経験のある人だろう。省の国際結婚部門と提携しているという点が気になる。
さまざまな個人情報を管理している中国の地方政府では、個人情報を操作することはかなり日常的に行われているという。小学校の先生でもないのに教師という経歴を手に入れたり、生年月日を変えたり、結婚歴消すこともされている。「戸籍は正確」という日本の感覚が通用しないことを、忘れてはならない。

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方正もうで

笹川幸男さんは黒竜江省方正県の女性を日本の男性に紹介する業者の1人。コンビニなどでバイトする一方、結婚紹介もしている。
実は自分も、5年前方正県にお見合い旅行に行き、現地の女性と結婚した。
自分のブログに結婚から4年間の生活ぶりをそのまま書いた。1日ざっと1000件のページビューがあった。中国人女性との結婚を考えている人が相当数アクセスしているのだろう。
50歳を過ぎてパートナーが欲しくなり、お見合いツアーに参加した。今の奥さんも自分を気に入ってくれた。さくらパパさんは「俺は山口の田舎暮らしだし、金もないよ」というと、「動物を好きな人に悪い人はいないから」と奥さんが答えたそうだ。
佐川さんは、お見合い写真に犬と一緒に撮影したものを送っていた。彼はもともと、犬のブリーダーだった。
結婚生活は、順調だけではなかった。その後彼女に150万円の借金があるとわかり、なんとか返済した。
その後奥さんと一緒に、今の仕事を始めた。奥さんは方正県に帰省するときには「恥ずかしい思いをしたくないから」とかなりまとまったお金を故郷に持って行きたがった。たばこ、お酒が好きな笹川さんに「臭い、臭い」と言う。
喧嘩すると、奥さんは包丁を手にする。「俺を殺す気か」と聞くと、「私が死ぬ」と言い返した。激しいのだ。
男性が、さくらパパさんが紹介した女性と結婚すれば、すこしまとまった成婚料が入る。
でも、「中国人の女性の行動が理解できないのなら、やめたほうがいい」とお客さんにさらりと言う。
あんまり女性が若く、年齢差がある。または男性側が、容姿だけに惹かれているよう。そんな時も「やめたら」と率直に言っている。自分の経験からも、そんな結婚はうまく行かないと考えているからだ。
「でも男は馬鹿だね。外見だけで決めてしまう」。笹川さんの嘆きは終わらない。
彼のブログにはたくさんの男性が訪問していたが、彼も2010年、紹介客との間で料金をめぐるトラブルが起き、ブログを閉鎖したが、方正には需要が多く、紹介業は今も続けている。

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本場で営業する日本人

現在、方正県には日本人が約100人が在住しているという。この地に日本人経営の結婚サポート業「青葉堂」がある。
ホームページを開いてみると、いきなり美しい女性の顔が出てくる。この人は社長である吉岡宏幸さんの奥さんである。
吉岡さんは、広島県の尾道出身。国際結婚の仲介業者は、日本にいて中国側の業者さんと協力するものだが、吉岡さんは方正県に住み着いて、達者な中国語を使って女性を探し、日本人と結びつける仕事をしている。
これはなかなか大変なことだ。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」のとたえがぴったり来る。日本人を紹介して、もし思いがけないトラブルがあれば、すぐに怒鳴り込まれてしまう。実際、過去にはそういうことがあった。それだけ責任を持って仕事をしているということだろう。
2007年12月に自らも中国人女性と結婚した。奥さんは同社が利用していたホテルのルームキーパーさんだった。
黙々と働く彼女を見て、「我慢強い女性だな。こんな女性と結婚できたらと幸せだろうな」と、思っていたら結婚していた、と吉岡さんは笑った。
98年から香港で働きはじめた。香港から北京に来ていろんな仕事をしていた。その中には俳優業もあった。結婚紹介はいろいろはじめた仕事の中の一つだった。2002年に独立し、事務所を構えた。生来の腰の低さと、ビジネス書を欠かさず読んで顧客サービスを考える熱心さだ。
方正県には、日本人と結婚を希望する女性を、日本人に紹介する中国の仲介業者がたくさんいる。彼らの中には女性から巨額の紹介料をとる悪質な仲人もいて、お金をとらない吉岡さんを心よく思っていない。そんな人間に陥れられないようにすることも、青葉堂の仕事の一つである。
事業は軌道に乗っているが、利益の一部を、地元の小学校に寄付するなど気配りも忘れない。吉岡さんの事業哲学は、顧客本位を貫くという平凡なことだが、安定した国際結婚サポートをするには、良い日本人男性と良い中国人女性を厳しく選ぶのが一番の秘訣だ。

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