第6章 日本社会への順化は可能か[5]
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第6章 日本社会への順化は可能か[5]
地域に移住者交流センターを
東京荒川区尾久は、在日中国人や中国籍から帰化した中国人が多く住む場所の一つだ。ここに華人向け教会があり、妻が通っている。
教会はどんな役割を担っているのだろうか。日曜日に妻と出かけてみた。工場街の中にあり、教会の外観も工場のような印象だった。中に入るとすでに皆が賛美歌を歌っていた。
ここは、基本的にすべて中国語だから、完全には分からないが、漢字が羅列された歌詞がスクリーンに映し出され、ゆっくりゆっくり何回も歌われる。
私もついて行けた。イエス(耶蘇)なんて出てくる。罪とか誠実といった単語も歌の中にそのままの漢字で出てくる。
その後、日本人で中国人と結婚した神学校の若い学生が出てきて、日本語で聖書を説明してくれた。中国人の奥さんが順次翻訳する。国籍の違う二人が、違う言葉で同じ救いを語るのは素敵である。
その後、食事に移った。みんな話しかけてくる。中国人の女性たちは、毎週ここに集まって家庭生活、子供の教育などについて悩みを打ち明け合う。
瀋陽出身の40代の女性は「毎週ここにきます。ここがなかったら、私の家庭はどうなっていたか分からない」と話していた。牧師はシンガポール生まれの中国人で、「毎週来てくれ」と私に話しかけてきた。在日外国人をサポートするこういう教会はきっとあちこちにあるのだろう。
形式は構わないが、移住者と定住者が気軽に交流し、イベントや講座を通じて交流を深める場を設けるよう行政に要望したい。
地域にボランティア育成を
民間レベルでも、支援している人は少なくない。山形県の県庁所在地盛岡。ここにある「ハルピン家庭綾里店」を切り盛りしているのが大原隆さんだ。奥さんはハルピン出身である。
ホームページには、お店のメニューやお客さんとの交流が書かれているが、彼のもう一つの仕事は、東北地方に嫁いだ中国の女性たちをサポートすることだ。
例えば中国出身の奥さんの、身の上相談、夫婦間の通訳と問題解決への助言、公共機関や病院への付き添い、話し相手、社交の場の提供などを行っている。
2009年12月に来日した黒龍江省出身の女性は、夫のの仕事の関係で、夜を一人で過ごすことが多く不安な毎日を過ごしていた。この女性を店に呼んで、日本語学校に通うことを勧めた。今は日本の生活に慣れてきたという。
「一人でも多くの理解者がいることが日本に慣れる近道でもありますし、孤独を感じさせないことが大切と感じております。確かに出稼ぎ感覚で、つまり、お金を稼ぐために日本に来たり、日本人と結婚されている方もいるけれど、純粋に配偶者として頑張っている方もおります」と大原さんは言う。
個人の生活に立ち入ることは、本当に大変な所がある。本当に微妙な部分は、いくら親身になっても明かしてはもらえない。それでも縁あってご結婚された日中の方々が、理解することなく離別したり仲違いすることは避けてほしいと願っている。
本当は行政の支援を望みたいが、難しいのが現状だ。だから自分が一肌ぬいだ。「皆さんを応援しておりますので、ご支援が必要な時には、遠慮なくご連絡ください。決して一人ではありませんよ!」と大原さんは言っている。幸せな日中婚のカップルが一組でも増えるのが、大原さんの願いである。
政府は、大原さんのような人を支援する仕組み作りを考えてもいいはずだ。
オバマ大統領は国際結婚が作った
私は二〇〇八年夏から二〇〇九年五月までワシントンで生活した。その時の最大の話題は、大統領候補のバラク・オバマだった。新聞もテレビも連日彼の選挙キャンペーンを伝えた。彼を近くで見たことが一度だけあった。二月に行われた彼の大統領就任式である。
耐えきれないほどの寒さに包まれたワシントンのナショナルモールと呼ばれる大きな公園には数百万人が集まっていた。みんなが新しい政治、新しいアメリカを期待していた。私は妻とともにできるだけ前の方に向かったが、途中で警官に制止された。演説が行われる米議会前は招待された人だけが入れる。
しかたがなく、周囲に設置された大型スクリーンで演説を聴いていた。時々大きな歓声とともに拍手があがる。何回も書いてきたが、私の妻は中国人だ。私と彼女は国際結婚になる。そういえば、オバマだって父親はケニアから来た留学生だった。母親は米国人。中西部の中流家庭に育った普通の女性だ。つまり国際結婚である。
オバマの物語は、そのまま国際結婚のすばらしさと難しさを物語る。
父はオバマを身ごもった後、ハワイからボストンに行き、帰国してしまう。父にはケニアですでに結婚していた。母は「ひどい精神的苦痛」で離婚する。
母はその後インドネシアでもう一度国際結婚をするが、インドネシアはイスラム教の国である。母は宗教やインドネシアの生活になじめず、もう一回離婚してしまう。しかし、母親の偏見のない行動が、オバマの今を形つくっている。
少子化が進む日本では、今後国際結婚が増えるのは間違いない。もちろん習慣、考え方のの違いがあり、簡単ではない。それでも二つの国の人間が愛で結ばれる。それは素敵なことだ。
日中国際結婚の子供たちの未来
歴史的に日本と中国の交流は盛んに行われた。たとえば中国で、7世紀を中心に300年間繁栄した唐の時代。日本は遣唐使を送り、文化の吸収に努めた。その過程で現地でパートナーを迎え、子供をもうけた日本人もいた。
羽栗吉麻呂という人は716年遣唐使に、後に中国で高く評価された阿倍仲麻呂とともに参加。唐の女性と婚姻し、息子を2人もうけた。阿倍仲麻呂はそのまま唐に留まったが、吉麻呂は息子たちとともに帰国した。日中の血を引く子供たちは、両国の言葉に通じ、天皇の側近に引き上げられたといわれている。
歴史の教科書で、鄭成功という人の名前を記憶している人もいるだろう。彼は1624年日本の平戸で父・鄭芝龍と日本人の母・田川松の間に生まれた。幼名を福松と言い、中国に戻ってからは、清に滅ぼされかけた明を擁護し抵抗運動を続け、台湾に渡り鄭氏政権の祖となった。台湾では彼の像があちこちでみられる。
最近では林丹丹ちゃん(父は日本人、母は中国人)がよく知られている。全日本国民的美少女コンテストで優勝した。
続いて、人気ドラマ「花より男子」に出演した阿部力君などもいる。
日中の血を受け継いだ世代が、新たな交流の時代を築いていくことを信じている。
中国に学ぶ
最後に、われわれの意識を変えることを書いて置きたい。日本人のかなりな部分は、「中国は子供の教育もままならない農村ばかり」「共産党独裁で、庶民は自由に話せない」と思っていないだろうか。
私が新聞社に勤務しているからかもしれないが、とにかく日本の社会には「中国は下に見ておけ、無条件で批判しろ」という人たちが多く存在する。
しかし、急ピッチで成長する国には、それなりの魅力もあり、日本人が学ぶべき点がある。
その1つは子供の教育だろう。
あと書き
私もそんなに理想的な夫ではない。毎日、試行錯誤を続けている。
ある時妻に、なぜ私と結婚することを決めたのか聞いてみた。
「私は外見とか、お金とか関係ない。発展性」という。私に、何か発展するものを感じたのだそうだ。
まさか。口が上手すぎるが、「中国人は嘘をつかない」というから本当だろうか。
中国語で口が上手いことを油嘴と表現する。油のついた「くちばし」ってのは妙な実感がわく。いかにも滑らかに回転しそうだ。特に天津人は、油嘴で有名。私の妻は天津で育っているから、本場育ちだ。
国際結婚はピーク時の2006年から減少傾向にある。一方国際離婚は18774件で過去最高を記録した。国際結婚は全体の結婚の5%だが、国際離婚は離婚全体の7%を占めており、国際離婚が離婚全体を押し上げていることが分かる。
国際結婚の場合、8割が日本人男性と中国人女性の組み合わせだ。
国際結婚を求める男性は増えているが、中国人の間で日本人との結婚を敬遠する傾向があるという。
中国の有力紙「中国青年報」も2009年3月に、出国して外国人男性と結婚したいと考える中国人女性の割合が金融危機を境に42、5%から16、8%に大幅に減少したと伝えた。
結婚紹介インターネットサイトの調査として伝えたもので、金融危機の起きた2008年9月の前と後で6000〜4000人程度の女性を対象に調査したところ、国際結婚を「幸せ」と感じる平均指数が危機前の72から危機後は54に激減した。
一方、中国人男性を「第1の結婚相手」と考える女性は53%から68%に上昇し、中国人男性の株が上がったという。それはそれで結構なことだが、その陰には日本に失望している女性が多いことがあるのだろう。
妻は当初、日本における中国人女性の現状を出版したいという私に反対した。「偏見や差別をかえって助長する」と心配したようだ。だが、私の目的は、彼女たちの可能性を伝えることであり、結婚を使って違法な手段で日本に来ようとする人たちについては、はっきり書かなければならないと説得すると理解してくれた。もし、ここまで読んで、誤解を招いているとすれば、全て責任は私にある。
私は結婚や社会学の専門家でもない。ただの経験者である。本文の末尾には、友人の岡村さんが結婚するまでの心得を寄せてくださったが、結婚後について付け加えるとすると、以下の通り。
1、家の中では相手の国の言葉でも話し、文化、風習を尊重する。
2、相手の国の体制や問題点をことさら批判しない。
3、妻の友人と積極的に付き合う。
4、家計は妻に任し、家のことは基本的に妻に決定させる。
5、何かあったら、いつでも帰国できるようにし、故郷の家族と会う機会を作る。
そんな面倒くさいこと御免だという人もいるだろう。しかし、考え方を変えると、なかなか得難い人間鍛錬の経験である。国内でできる海外体験かもしれない。
要するに違う考え方を持った人との生活を楽しむことだ。それが成功の秘訣だと思う。わたしだってできた。ここまで読んでいただいた方は、年齢、環境もさまざまだろうが、どうか諦めずに可能性を探っていただきたい。
窓口
外国人の相談、支援窓口は各自治体の国際交流協会にある。さらに民間団体は語学・教育、医療、生活支援などに別れる。すべてを把握するのは難しいが、外国人の多い静岡県浜松市や神奈川県川崎市などで先進的な試みが広がっている。
移住労働者と連帯する全国ネットワーク(移住労働者・移住外国人の権利を守り、その自立への活動を支え、多文化・多民族が共生する日本社会をつくることを目指している)
http://www・jca・apc・org/migrant−net/
浜松NPOネットワークセンター(全国の代表的な多文化共生関連民間団体のリンクが充実している)
http://gci・npgo・jp/jp/
UーBIQ(全国のボランティア日本語教育の連絡先を検索できる)
http://u−biq・org/volunteermap・html
国際結婚を考える会(国際結婚全般)
http://homepage3・nifty・com/amfe−community/
内外地理研究会(業者婚への警告を発している)
http://www8・ocn・ne・jp/〜kosuge/
国際結婚列伝国際結婚をテーマにしたブログ集
http://kkr・kanpaku・jp/index・htm
新宿区多文化共生プラザ(さまざまなサポートを行っている)
http://www・shinjukubunka・or・jp/tabunka/japanese/index・html
韓国移民庁(韓国語)
http://aic・go・kr/jus/pages/introduction/aic_site・jsp
ソウル市の多文化家族プラン(日本語)
http://japanese・seoul・go・kr/gtk/news/news_view・php?idx=6342
明治大学山脇啓造研究室(多文化政策の実現を呼びかけている)
http://www・kisc・meiji・ac・jp/〜yamawaki/vision/
自治体国際化協会ソウル事務所(韓国について多数のレポートがある)
http://www・clair・or・jp/j/forum/forum/sp_jimu/sp_jimu_seoul・html
さくらパパhttp://blog・goo・ne・jp/sakura−papa0816/
青葉堂http://www・aova・net/
かりん551http://www・kalin−enet・com/
1151チャイナウェディングhttp://www・1151・be/
中国婚姻網http://www・51ai・com/
国際結婚協会http://www・itn−wedding・com/
盛岡のハルピン家庭料理店http://pub・ne・jp/harupinn55/
愛育ネットhttp://www・aiiku・or・jp/aiiku/jigyo/contents/tabunka/tb0902/tb0902・htm
参考書籍
「国際結婚第一号明治人たちの雑婚事始」(小山騰著講談社)
「中国の大難」(富坂聡著新潮社)
「婚活の時代」(山田昌弘、白河桃子著ディスカヴァー・トゥエンティワン出版)
入国管理局「平成19年末現在における外国人登録者統計について」「平成20年版出入国管理」「平成20年における外国人入国者数及び日本人出国者数について」
「ありのままの国際結婚」(石田洋司著文芸社)
「通訳捜査官」(板東忠信著経済界)
「出身地で分かる中国人」(宮崎正弘著PHP新書)
「不平等国家中国」(園田茂人著中公新書)
「韓国の外国人支援ヒアリング報告」(多文化共生センターきょうと編)
「国際結婚ハンドブック」(国際結婚を考える会著明石書房)
「日本の移民政策を考える」(依光正哲著明石書店)
「中国人女性と国際結婚しました!―入国管理の厳しい壁をのり越えて」(宮内伸人著牧歌舎)
「国際離婚」(松尾寿子著集英社新書)
「生命満つる里、沢内村」(指田志恵子著ぎょうせい)
「国際結婚多言語化する家族とアイデンティティ」(河原俊昭、岡浩子著明石書店)
「外国人住民への言語サービス―地域社会・自治体は多言語社会をどう迎えるか」(河原俊昭野山広編著、明石書店)
「日本人と中国人永遠のミゾ」(李景芳著講談社アルファ新書)
「フィリピーナはどこに行った」(白野慎也情報センター出版)
「多文化の処方箋―外国人の『こころの悩み』にかかわった、ある精神科医の記録」(桑山紀彦著アルク新書)
「移民国家ニッポン―1000万人の移民が日本を救う」(坂中英徳、浅川晃広著日本加除出版)
国際結婚「危険な話」(関陽子著洋泉社y新書)
「多文化共生キーワード事典」(多文化共生キーワード事典編集委員会明石書店)
「国際結婚論!?現代編、歴史編」(嘉本伊都子著、世界文化社)
「新潮45」2007年2月号